イグノランツ誕生から今でもずっと一緒に生きてくれている文学エリートMr. Tama Dylan そのハートはまさにロックンロール
「迷うならやるな、やるなら迷うな」

たしか、大陸の方に伝わることわざだったか。
このバンドの音を聴くとなぜかいつも、この言葉が浮かんでくる。

「突き抜けようぜ」

この七文字の言葉は、かつてバンドの草創期に、オープニングナンバーでまじないのようにシャウトしていたフレーズだ。

時を越えて、新曲の中で不意にこの七文字のフレーズが繰り返された。思わず息をのんだ。
不思議と懐かしさではなく、まったく新しいニュアンスと手触りを持った言葉として響いたからだ。

誰の実人生とも同じように、バンドの道のりもまた、平坦ではない。思うようにはなかなかならない。

それでも彼らは進み続ける。転がり続ける。昨年加入したドラマー「ケンちゃん」こと岡田堅一さんのビートが、新しい血として脈動している。


Stay foolish, Stay Ignorant.
「無知の知」ってやつが、たぶん一番、強いのだ。

「迷わずやる。突き抜けるぐらいに」
イグノランツのいるところ、そんな熱量の「解放区」になる。
                                                  
2024. 1.21 千葉 ANGA 
■30分間の永遠■

●Walk TO the Wild Side

平日の夜にライブハウスに駆けつけると、1日が長くなる。もちろん、良い意味で。

仕事に終われて消費してしまう日常に、半ば強制的に緩急をつける。そんな感じだ。

水曜の夜は週の真ん中。締切前の原稿を仕上げるのもそこそこに、職場から地下鉄にとび乗って新宿へ。靖国通りを曙橋方面に歩く。

新宿WildSide Tokyoは、「いかにも都会のライブハウスらしいハコ」という人が多い。新宿の地下に広がる、秘密組織のアジトのような雰囲気も魅力だ。

「ワイルドサイド」の名前は伊達じゃない。バンドマンたちは、ここぞとばかりにデカい音を出す。
言うまでもなく、イグノランツもその一つだ。
この夜の5組の中でトリを飾った。ここを新宿の拠点にして、もう10年くらい経つだろうか。

●アニバーサリーを見据えて

「あり得ないくらい濃い30分に、また挑戦するよ」

前日に、シュウさんからそんなメッセージをもらっていた。企画もののライヴの限られた時間の枠の中で、いかに濃密なステージを展開するか――。最近のイグノランツは、そうしたことにも心を砕いている。

それならなおさら、あえて平日の夜にその場に身を置いてみたい。「永遠のように濃密な数十分間」のステージは可能なのか――。

果たして、この夜集った人々はそれを目撃した。

ライヴの定番曲を思いきって外しながらも、へヴィに始まり、ビートナンバーで踊らせ、バラードで締めくくるセットリスト。新旧の『イグノランツのテーマ』が両方演奏され、バンドの歴史も俯瞰して見せる。

時間の枠組みというピストンでギュッと断熱圧縮されたステージ。それはいつにも増して熱かった。

ライヴ強者とライヴ巧者のあいだ。
イグノランツは、その両方を高速で自在に行き来するバンドとして自らを叩き上げた。
それは老成や成熟ではない。やはり進化だと思う。

今春は結成15年の節目を迎える。
臨界点の遥か先へ。飛躍の足場は、もう整った。
                                             
 2024.2.28 新宿 Wild Side Tokyo